DAC Japan

転載を禁ず (C )ISF認定映像調整エンジニア 鴻池賢三

ISF(Imaging Science Foundation) のメソッドに基づく映像調整手順  

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CalMANを使ったキャリブレーションの手順や調整の概要を、写真や動画で紹介しています。

目次

1. はじめに
   1-1.  何故、映像の調整・キャリブレーションが必要なのか? 
   1-2.  良い画質、高画質とは?
   1-3.  ISFの調整メソッドとは?
2. 使用測定器(カラーアナライザー) システムの紹介
3. 映像調整手順 (例)
   STEP1:  映像機器のセッティングとカラーアナライザーの準備
   STEP2:  温度の調整
   STEP3:  「明るさ」と「コントラスト」の調整
   STEP4:  「色の濃さ」と「色あい」の調整
   STEP5:  グレースケール (ガンマ)の調整
   STEP6:  シャープネスの調整
   STEP7:  最終微調整
  
4. 調整結果レポート (例)
5. <オプション> 色域調整  CMS(Color Management System)  

1. はじめに

 

1-1. 何故、映像の調整が必要なのか? 

エアコンを設置した際、温度設定を工場出荷設定のままで運転する人はいるでしょうか?

使用者が、設置環境、目的や好みに応じて設定してこそ、快適さが得られます。

映像も同様です。光である映像の見え方は、照明など周囲の光の影響を強く受けます。また、目的や好みの反映も大切です。

制作者の意図した色を忠実に再現すには、設置環境に応じた映像調整、経時劣化による変化を補整するキャリブレーションが必要なのです。

ISFによる調整メソッドは、北米を中心に、世界で映像制作のプロフェッショナル、ホームシアターファン、写真愛好家など、正確な映像再現を求めるユーザーに認められ、アジアにも広がっています。

1-2. 良い画質、高画質とは?

ISFでは、制作者が意図した映像を忠実に再現する事を「高画質」と定義しています。

特に映画は、制作者の意図か映像の隅々まで込められており、製作のプロセスも厳密に管理されています。 視聴者側も、好みや記憶色に頼らず、基準に沿って科学的な調整を行う事で、制作者のニュアンスやメッセージをより多く得ることができます。

ソースに収録されている情報を極限まで引き出し、ソースに収録されていないものは映し出さない。

当たり前で単純な事ですが、実践されていないのが現状です。

1-3. ISFの調整メソッドとは?

ISFでは、プロジェクター、プラズマ、液晶など、各映像機器の特性はもちろん、人間工学や色彩工学に踏み込んだ研究の成果から、科学的な根拠をもとに、独自の調整メソッドを確立しています。

以下、ISFの調整手順と、各調整項目が画質に及ぼす影響なども解説します。

2. 使用測定器の紹介

DAC Japanでは、ISFの認定を受けた最新の映像キャリブーレション用ソフトウェア、米SpectraCal社の最上位「CalMAN5 Ultimate」を導入しています。

 

・DVDO iScan DUOと連携する自動10ポイント調整も可能です。

・センサー(Meter)は標準でx-rite社のi1 Display Proを使用します。

 (用途やご要望により、コニカミノルタCS-200なども使用できます)

3. 調整手順 (例)

<< STEP 1 >>

映像機器のセッティングとカラーアナライザーの準備

調整の基本は、映像信号としてテストパターンを入力し、表示画面をカラーアナライザーで測定します。

ブルーレイなどのソースを視聴するスクリーニングルームやホームシアターでは、再生装置(ブルーレイプレーヤー)でテストパターンを収録したブルーレイディスクを再生し、表示画面の映像(光)を測定します。

こうする事で、プレーヤー、接続ケーブル、映像装置にわたる全ての特性を反映した調整が可能です。

精度の面では、テストパターンを発生するシグナルジェネレーターを映像装置に直結する方法がありますが、DVDプレーヤーやケーブルの特性が反映されていない為、一般的なDVD視聴環境の調整には不向きです。

もちろん、再生装置自体の評価をする場合、シグナルジェネレーターを用いて、映像装置を標準的に調整するのは有用です。

以下、DVDプレーヤーと映像装置の組み合わせを例に、調整手順を示します。

<< STEP 2 >>

色温度の大まかな選択

まず、映像の基本となる色温度(色味)をターゲットに近づけます。 HDTVや映画の制作基準は、色温度が6500K(ケルビン)ですので、ターゲットは通常6500K(D65)ですが、視聴環境や好みに応じて決定します。 

画面にテストパターン(白75%)を表示させ、色温度を測定しながら、6500Kに最も近くなる設定を探します。

なお、ここで「色温度」を用いて表現しているのは、長年「色温度」が指標とされてきた慣習から便宜上です。正確には、工業界で標準的に用いられるCIE(国際照明委員会)が規定すXYZ表色系を用います。 この場合、D65は「x: 0.3127, y: 0.3290, z: 0.3583」で表され、これが真のターゲットです。

映像機器により、色温度が数値で設定できるもの、「高、中、低」の3段階から選択するものなど様々です。 尚、設定上の数値や段階は目安に過ぎません。 測定結果で判断します。

* 色温度についての詳細は、記事『今さら聞けない!「色温度」の正しい設定法』を参照ください。

<< STEP 3 >>

「明るさ」(ブラックレベル)と「コントラスト」(ホワイトレベル)の調整

「明るさ」は、映像の最も黒い部分の「明るさ」を調整します。 メーカーによって、「黒レベル」や「ブライトネス」と呼ばれる事もあります。 誤解を無くし、事実を的確に示す上で、ISFでは「ブラックレベル」と呼ぶことを推奨しています。

この調整の目標は、黒が充分に沈みつつ、黒潰れによって暗部のディテールが失われない設定を見つける事です。

 

左写真「黒レベル高」は、黒レベルが適正よりも高く、暗部が明るくなりすぎた例で、締まりの無い印象になります。

「コントラスト」は、映像の最も明るい部分の「明るさ」を調整します。 メーカーによって、「ピクチャー」と呼ばれる事もあります。 ISFでは「ホワイトレベル」と呼ぶことを推奨しています。

この調整の目標は、出来るだけ輝度を高くしつつ、白飛びによって明部のディテールが失われない設定を見つける事です。

左写真「白レベル高」は、白レベルが適正よりも高く、明部が明るくなりすぎた例です。 測定上のコントラスト比値は向上しますが、明部のディテールが飛んでしまい、映像としては破綻しています。

ブラックレベルとホワイトレベルを最適化する事によって、画質で最も大切なダイナミックレンジを最大限に引き出しつつ、映像ソースに含まれる全ての情報を100%再現する事ができます。

ブラックレベルとホワイトレベルの調整は、周囲の明るさに影響される為、APL(平均輝度プルージュ)と呼ばれるテストパターンを用い、主に目視で確認を行います。

ブラックレベルとホワイトレベルの調整は、お互いに影響し合うので、最適化できるまで、何度か調整を繰り返します。

<< STEP 4 >>

「色の濃さ」(カラー)と「色あい」(ティント)の調整

良い画質の基準は、映画など、制作者の意図した色合いや色の濃さを忠実に再現する事が基本です。 もし、緑色がかった映画「マトリックス」を、制作者が意図に反して、記憶色に調整してしまったら・・・ 映画「マトリックス」は極端な例ですが、映画監督によって、ブルーやグリーンなど、微妙な色調に意図を込めたり、独自の世界観を表現しています。

制作者の意図を忠実に再現するには、記憶色に頼らず、テストパターンを用いた定量的な調整が重要です。

因みに、左写真(上)は、適正よりも緑が強い例です。 適正よりも古く見えるなど、制作者の意図とは違った印象を与えてしまいます。

左写真(下)は、色が濃すぎる例です。 一見、色鮮やかで奇麗に見えますが、こちらも制作者の意図とは異なりますので、良い画質とは言えません。

実際の調整方法としてはまず、放送終了後でお馴染みの「カラーバー」をテストパターンとして表示し、ブルーのフィルターを使って目視で調整します。

* ブルーフィルターを用いた調整方法については、こちらを参照ください。

次に、グリーン、レッドのフィルターを使って、再確認します。

カラーとティントの調整は、お互いに影響し合うので、最適化できるまで、何度か調整を繰り返します。

一般的なテレビの調整は、ここ迄で終了です。

液晶やプラズマのハイエンドモデル、プロジェクターなど、「ゲイン」や「カット」の調整が可能な映像装置は、次のグレースケール調整も行います。

<< STEP 5 >>

グレースケールトラッキング (ガンマ)の調整

視聴者の好みに関わらず、測定器を用いてキャリブレーションすべき項目の一つで、グレースケールを用いて、R、G、Bのガンマを調整します。

STEP2で、色温度の調整を行いましたが、これは、たった一点、平均的な明るさの白(輝度75%)の色味に過ぎません。

ハイエンドモデルやプロジェクターなどでは、「ゲイン」(明部/白80%)や「カット」(暗部/白30%)、あるいは10ポイントから20ポイントにおけるR、G、Bバランスを独立して調整可能で、暗部から明部まで、色温度の平滑化が可能です。

この調整により、グラデーションも、階調や色調共に正確に表現でき、制作者の意図した階調表現が再現できます。 また、プロジェクターの光源ランプやプラズマパネルの経時劣化による緑かぶり(明るい映像で画面全体が緑がかって見えるような問題)も解決します。

調整方法は、IRE100(白100%),90,80,70・・・20,10,0(黒)のテストパターンを表示させ、測定器で色温度を確認しながら、6500Kに近づくよう、R、G、Bのゲイン又はカットを設定します。

特に暗部は、目視の場合、判断を誤りやすい為、測定器が威力を発揮します。

左写真(上)は、R、G、Bのガンマが正しい状態の適正例です。

左写真(下)はGのガンマで、ゲインが高く、カットが低い不適正な例です。明部が緑がかり、暗部が赤みがかっているのが分かると思います。

写真ほど極端にガンマが狂っていない場合、実際のカラー映像では、この問題に気が付きにくいですが、知らず知らずのうちに、明るめのシーンでは全体的に緑がかり、また別の暗めのシーンでは、全体的に赤みががるなど、制作者の意図とは違った印象を受けてしまう事になります。

もちろん、同一画面上でも色合いやグラデーションは不自然なものになります。

このグレースケールトラッキング調整時に、ガンマもターゲットに沿うよう整えます。ガンマの設定目標は通常制作基準の2.2ですが、ISFでは、明るい部屋では2.0、暗室では2.4を推奨しています。

<< STEP 6 >>

シャープネスの調整

シャープネスを高く設定すると、画面がクッキリして見え、好まれる傾向にありますが、これは映像装置によって作り出されたトリックで、元の映像に忠実とは言えません。

調整方法は、左写真(上)のようなテストパターンを表示させ、左写真(下)のように、白い輪郭線が見えるまでシャープネスを高く設定します。

この白い輪郭線が、シャープに見せかけるために、映像装置が作り出した"人工物"です。

次に、左写真(上)のように、輪郭線が見えなくなるまで、充分シャープネスを低く設定します。

実写映像の場合、正しくシャープネスが調整された映像は、見慣れない為か、最初は甘く感じますが、自然な柔らかさの中に、奥行き感などの情報量が増え、立体的になるのが分かります。 また細部がギラギラしないので、長時間の視聴でも疲れません。

<< STEP 7 >>

最終微調整

全ての調整は、少なからずお互いに影響を及ぼし合うので、全ての調整が完了後、再度同じ調整手順を繰りかえし、確認および微調整を行います。

4. 調整結果レポート (例)

調整結果は、レポートを提示致します。調整前と調整後の違いが数値とグラフでご確認頂けます。

PDFレポート サンプル ダウンロード

5. オプション

色域調整  CMS(Color Management System) 

プロジェクターや一部のテレビ製品など、一般に6軸調整と呼ばれる調整項目を備える映像装置の場合、色域を各種規格に沿うようキャリブレーションできます。

民生用映像装置の多くはHDTVの色域基準であるBT.709を超えた色再現が可能で、色を拡張して表示する傾向があります。

また、BT.709やDCIなど、色域の選択が可能な映像装置も、出荷状態でRGBCMY(レッド、グリーン、ブルー、シアン、マゼンタ、イエロー)のCIEチャート上の座標(明度、色相&彩度)が基準点から外れているケースが殆どです。また、光源の劣化に伴う経時変化も起こります。

ブルーレイやデジタル放送の場合、制作者に近い状態で視聴したい場合は、BT.709をターゲットに調整します。映像装置の出荷状態に比べると色が薄く感じますので、ユーザーの好みに合わせてDCIをターゲットにしたり、色を濃く調整する事も可能です。

ターゲットがBT.709にせよ、DCIにせよ、測定器によるキャリブレーションが有効な調整項目の一つで、色のバランスが整う事によって、違和感の無い映像が得られ、長時間の視聴に適します。

調整デモ(Youtube動画): CalMAN 色域(調整編)

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